「いったいお前は何がしたい? 何が目的だ? 何を考えている?」
「質問は一つにしてくれ」
「どれでもいい。答えろ」
突然瑠駆真の前に現れ、廿楽華恩のお茶会に出ろと言う彼。瑠駆真の過去を知り、美鶴にバラすとチラつかせ、瑠駆真の母を初子先生と呼び、瑠駆真を人殺しと罵る。
「とても好意的とは思えないな」
「もちろん。俺はお前に好意など抱いてはいない。前にも言ったが、むしろ俺はお前が嫌いだ」
今まで飄々とした態度で笑みを浮かべていた陽翔の瞳に、翳りが差す。
「俺はお前が嫌いだ。だから、お前の恋など壊れてしまえばいいと思っている」
「お前は僕に何か恨みでもあるのか? 僕はお前にそこまで嫌われる――」
そこで瑠駆真は言葉を切る。
同じような問答を、前にもした事がある。そう、まさにあの裏庭で。
そして小童谷陽翔は、瑠駆真の質問にこう答えた。
「お前が、初子先生を殺したんだ」
夜風が二人の間を吹きぬける。昼間は晴れて暑かったが、さすがにもう秋だ。陽が落ちれば蒸し暑さはない。
閑静な住宅街。少し開けた場所に、小さな公園。その入り口付近に立つ二人。さきほど、一台の軽トラックが横を通り抜けていった。それ以外には人影もない。
「同じ質問を繰り返し聞かれるのは、あまり好きではない」
そこで陽翔は、ふと視線を遠くへ飛ばす。
「初子先生もそうだった」
その瞳に浮かぶのは何だろうか? それまでの攻撃的な、あるいは見下したかのような、場を楽しむようでもありながらどことなく冷めた態度しか見せなかった陽翔。彼にしてはあまりに不似合いな、暖かすぎる思慕のような視線。
どことなく虚ろを残したまま、その視線を瑠駆真へ戻す。
「お前は、初子先生を殺したんだ」
「殺してなんかいない。あれは事故だ」
「お前が夜中に勝手に家を飛び出したりしなければ、初子先生が死ぬことはなかった」
言い返そうとする瑠駆真を強引に遮り
「家を飛び出したのは、本当なんだろう?」
問われ、瑠駆真は口を閉じる。
「どうしてまたこんな点数なの?」
母の咎が耳に響く。
「ただの単語テストじゃない。ちゃんと勉強してたの?」
「してたよっ!」
「じゃあどうしてこんな点数取ってくるのっ!」
母さんにはわからないんだ。母さんは英語が得意だから、だからわからないんだ。
たかが単語? そうさ、できる人間には所詮大した内容でもない。でも僕は英語が嫌いだ。単語一文字見るのもうんざりだ。
学校も楽しくはなかった。大迫美鶴という少女の姿を見るのだけが唯一の楽しみと言っても良かった。
放課と同時に、逃げるように学校を出る。家に帰って部屋に篭り、ゴロンとベッドに横たわりながらぼんやりとその姿を思い浮かべる。淡くて儚くて、でも底知れぬ深みを漂わせる甘美な幸せ。
「明日からは、あなたも教室に出なさい」
母が開く英語教室。二時間、ひたすら英語だけを勉強する。
それまでにも出ろと言われる事はあった。その度に言い訳を作っては回避していた。
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